MTAは,筋(myo)を調整(tuning)するアプローチであり,神経生理学的現象を利用して主に筋が原因(稀に皮膚から皮下組織)で生じる症状を改善するアプローチである. 目的は,痛み,痺れを改善し,筋緊張を調整することにより,関節可動域(Range of Motion:ROM)や運動能力を向上させ,ADLおよび生活の質(Quality of Life:QOL)を高め,精神的苦痛を和らげることである. 筋の損傷や緊張は,痛み,痺れ,筋緊張の異常などの症状を起こす.それらの症状は,リハビリテーションの阻害因子となり運動機能障害を起こし,訓練効率あるいはモチベーションの低下などの原因となるのみでなく,腰痛などの疾患の治療効果を大きく低下させることが多い.しかし,筋が原因で起こる上記の阻害因子を改善できれば,治療効果およびモチベーションを飛躍的に向上できる.痛みがない場合でも筋緊張が亢進していれば,ROMが制限され運動能力が低下する.例えば,脳卒中片麻痺の症例で体幹と腰部の筋緊張亢進により,体幹前屈のROM制限があるために靴を履く動作を行えない場合には,ROM制限の原因になっている筋を探し出し,MTAで緊張を低下させることにより,即時的に靴を履く動作が可能となる.痛みなどの症状は,侵害受容器が刺激されて起こる痛覚神経線維のインパルスが脳に到達したときに発生する.神経ブロック療法は局所麻酔薬を体内に注入し,問題の部位からの痛覚神経線維のインパルスを脳に到達する前に消失させる治療法である.一方,MTAは徒手を用いて生体を刺激し,神経生理学的現象を起こすことによって痛覚神経線維のインパルスを消失させ,痛み,痺れ,筋緊張の異常などの症状を改善する手技であると推測している. また,MTAは中枢および末梢神経麻痺を改善し,運動能力を向上できる可能性がある手技でもある.詳細な治療原理は不明であるが,痛み,痺れによって起こる筋緊張亢進や血流改善による筋不全の改善,神経‐筋移行部で末梢神経終末から筋へ放出される化学物質の量の増加,固有受容器を刺激することによる神経線維のインパルスの増加,などにより筋活動が活性化し,動きが改善すると推測している.尚,中枢性麻痺に対するMTAが脳神経にどのように影響するかに関しては,今後の検討が必要である. 以上述べたように,MTAは筋の損傷や緊張などが原因で起こる多くの症状や運動機能障害を改善し,治療の効果および効率を顕著に向上できる可能性がある. 実際に,高田らの報告では,MTAにより痛み,痺れ,筋緊張の異常などが著明に改善し,筋力,筋積分値および関節可動域が増加している.また,整形外科疾患,内科疾患および脳血管障害による運動麻痺などの中枢性疾患まで,幅広い適応が認められている. MTAは,筋触察により患者様の訴えている症状が出現する部位を探し,再現症状を抑制部位への触圧覚刺激によって改善する手技である.また,症状を改善しながら施行する運動療法によって,筋の収縮機能および伸張機能を最大限に活性化させる自動能動的な治療アプローチでもある.